九六式陸上攻撃機


九六式陸上攻撃機二三型のプロペラ



三菱 九六式陸上攻撃機二三型のプロペラ
(大分県大分市・大分県護国神社





(平成20年11月18日)
九六式陸上攻撃機のプロペラ





三菱 九六式陸上攻撃機二三型のプロペラ
(大分県大分市・大分県護国神社)







(平成20年11月18日)

三菱 九六式陸上攻撃機二三型

全幅/25.00m
全長/16.45m
自重/5,243kg
エンジン/三菱「金星」51型 空令星型複列14気筒1,300馬力×2基
最高速度/416km/h
航続距離/6,228km
乗員/7名

(説明板より)


三菱九六式陸上攻撃機

昭和8年に試作された八試特殊偵察機が予想以上の好成績を収めたため、これを陸上攻撃機として実用化することに決定。
九試陸上攻撃機として三菱に試作指示が出された。
昭和10年6月に1号機が完成。
翌昭和11年6月、九六式陸上攻撃機として制式採用された。
主な量産型は11型、21型、22型、23型。
昭和16年までに三菱、中島両社合わせて合計1,048機生産された。

昭和12年8月14日、九州、台湾の両基地に展開していた中攻隊は、悪天候を冒して長躯、中国大陸の要衝を爆撃、世界最初の戦略航空作戦をおこない輝かしい初陣を飾った。
以後、日華事変の拡大に伴って本機も大陸へ進出、わが国唯一の戦略空軍部隊として活躍した。
太平洋戦争開戦直後、仏印に進出した九六陸攻隊は、一式陸攻と共にマレー沖で英国戦艦プリンス・オブ・ウェールス、レパレスの両艦を撃沈し、大艦巨砲主義を根底から崩壊させた。
その後、ビルマ、ジャワ、ラバウル、オーストラリアなどに進攻。
昭和18年春ごろまで第一線で活躍した。

全幅 25.00メートル
全長 16.45メートル
自重 5,243キロ
発動機 三菱「金星」51型(離昇出力1,300馬力/ゼロメートル)×2
最大速度 415キロ/時/5,900メートル
武装 20ミリ砲×1(後上面)、7.7ミリ銃×2(中央上面、側面)
魚雷800キロ×1または爆弾800キロ×1または500キロ×1または250キロ×2または60キロ×12
乗員 7名

(参考:『日本兵器総集』 昭和52年 潮書房発行)


【複列星型エンジン・三菱「金星」】

新時代の複列星型エンジンとして登場した中島「栄」、三菱「金星」のうち、最初に実用化されたのは三菱の「金星」だった。
すなわち、昭和11年に兵器採用になったエンジンは「金星」1型・2型、「光」1型・2型の四機種だった。
のちに九六式陸攻となった三菱の九試中攻の開発が進められたのは、そういう時期で、試作1、2号機および6号機は九一式水冷600馬力を装備していたが、もともとこの機体は空冷の「金星」20型800馬力を想定して設計されたものである。
試作3、4号機および7号機以降に装備されたA8金星空冷星型14気筒発動機を装備した九試中攻が予想をうわまる好成績を示したことから、昭和11年6月に九六式陸上攻撃機として制式採用となり、この年の11月下旬には、1週間にわたって大湊、鹿屋両航空隊に対する飛行および整備訓練が、横須賀航空隊で実施された。

三菱での九六式陸攻の生産は順調に進んだが、機体やエンジンの改良も矢継ぎ早に行われ、22号機からは「金星」30型、56号機からはついに1000馬力を超えた「金星」41型および42型を装備したG3M2(九六式陸攻22型)へと進化した。

(参考:碇義朗 著 『航空テクノロジーの戦い』 光人社NF文庫 1996年3月発行)

(令和2年5月6日 追記)


【エンジン・スタート】
九六陸攻は一式陸攻と違い旧式なので、電動セルモーターによるエンジン・スタートではなく、地上整備員によってエナーシャを回してもらい、セルモーターが1万回転くらいになった(音によって聞き分ける)ところで、コンタクト(セルモーターとエンジンを連結)して、エンジンをかけるのである。
寒い時は、一度失敗すると、なかなかエンジンがかからず、何回も整備員にエナーシャを回してもらうことになる。
地上整備員が2人でタイヤの上に乗り、エンジンの外側でエナーシャを回し始める。
このエナーシャが重く、時間をかけて慣性を利用しないと、規定の回転数になかなか到達しない。
セルモーターの1万回転を、ウーン、ウーン、ウーンという音で確認して、「コンタクト」と怒鳴りながら、コンタクト索を引き、プロペラがキューン、キューン、キュウーンと2、3回まわると、ブルルーンとエンジンがかかる。
試運転が終わり、離陸線へ地上滑走する。
離陸線に止まり、左右のエンジンを各一度づつ加速、減速運転(アクセレーション)を行なう。
これは、低速運転で地上滑走をしたので、発火栓(プラグ)に溜まったカーボンを吹き飛ばすもので、操縦員にとって一つの習慣である。

【地上滑走】
九六陸攻の地上滑走は大変である。
尾輪式の飛行機の場合、地上では前が見えないのは当然であるが、大きな図体で、三点姿勢で、しかもコクピットの中にいたのでは、前方を見ることは全くできない。
左腕は操縦桿をしっかり抱え込み、左手でブレーキを使う。
右手はスロットル(上部にある)を持ち、ブレーキとパワー(スロットル操作)で地上滑走するが、前が見えないので、サブ操縦員が天蓋を開けて上半身を機外に出し、方向や速度を手のひらでメイン操縦員の前の風防を叩きながら誘導する。

【離陸】
フラップを10度開にし、ブレーキをはなすと同時に、左手で操縦桿を持ち、右手の中指を左右2本のスロットル・レバーの真ん中に入れ、スロットル・レバーを持つ。
すなわち、左のスロットル・レバーは、人差し指と中指で挟み、右側のレバーは、中指と薬指で挟むといった格好である。
そして、スロットルを出す時は、掌で交互に押すといった操作が要求される。
方向舵が効くようにようになるまでは、スロットルを、同時に一緒にフルパワーにするのではなく、方向保持のために、微妙に左右のエンジンのスロットルを加減しながら、フルパワーに持って行く。
フルパワーにするまでは、サブ操縦員がエアレバーが緩まないように手で押さえ、フルパワーにすると、サブ操縦員が4本のレバー(両外側の2本がエアレバー、中の2本がスロットル・レバー)を押さえる。
最初のうち、つまり速度がつくまでは、一杯いっぱいのラダー(フットレバー)操作と、スロットル操作によって直進する。
この時、前は見えないから、左側の滑走路の端を見ながら、端との間隔が変わらないようにもっていく。
メイン操縦員はそのあと両手で操縦桿を持ち、方向舵(ラダー)で直進し、操縦桿を中立よりもやや前に押しているから、速度がつくに従って尾輪が上がり、前方が見えるようになる。
こうなればしめたものである。
ラダーが効くようになり、直進するのも楽である。
既にフルパワー。
80ノット。
操縦桿をやや引く。
機はフワリと浮上する。
わずか400メートルくらいの滑走で離陸である。
ブレーキをかけて、車輪の回転を止める。
搭整員が脚上げ操作にかかる。
これがまた大仕事である。
上部20ミリ機銃の銃座の前に、脚操作の装置があるが、ハンドルを脚上げの方向に保持してロックを外し、力を入れて、ゆっくり脚上げの方向にハンドルを回す。
このとき力を抜くと、風圧でハンドルは猛烈な勢いで回り、手に当たれば骨折することもある。
脚が45度付近になると、今度は脚の重さで重くなり、最後には相当な力を入れないと、完全な脚上げが出来ない。
このハンドルの回転が127回である。
「脚上げよし」と、搭整員から声がかかる。
同時にフラップ上げ。
上昇100〜120ノット。
脚上げ、フラップ上げ毎に、変更輪(トリム)を調整しないと、飛行機が大きく、速度が速いだけに、操縦桿だけではとても操作できなくなる。

【潜水艦爆撃】
潜水艦爆撃というのは、傍目には大したことではないように思えるが、大きな図体でのマイナス30度ピッチ降下爆撃は迫力があり、生易しいものではない。
ふつう、対潜哨戒と潜水艦攻撃は3機1ペアでやることが多く、3機が梯子形の広い編隊で磁気探知機を働かせながら、海面上を超低空で哨戒する。
そのうちの1機が潜水艦を捕捉すると、他の2機は600メートルまで急上昇して、攻撃に備える。
潜水艦を捕捉した機は、そのまま超低空飛行を続けながら、磁気探知機が感応するたびに、つぎつぎ自動的に落下する標識弾(海面に黄色い色がつく)の交点を結ぶ飛行を続け、標識弾の交点の移動により、潜水艦の推定航跡がわかるまで飛行する。
潜水艦の位置や航跡が推定できると、その機が急上昇に移り、攻撃海面を開放して、攻撃に備えて600メートルまで上昇する。
そこで、待機していた2機から順次攻撃に移るのである。
通常、高度600メートルで敵潜に接敵うるが、敵潜の進行方向(航跡または推定航跡)に向かって、45度で接敵する。
敵潜が45度の視野(操縦席の三角窓中央)に入った時、同時にスロットル・レバーを絞り(ブーストマイナス300ミリ)、降下旋回に入って目標を正面に据える。
この時の降下角(ピッチアングル)マイナス30度。
速度180〜200ノット。
かなりの突っ込み角である。
その降下角にもっていくのが難しい。
水平旋回から降下旋回に入りながら、30度の降下角にするための操縦桿の突っ込みが大きいと、マイナスG(体が浮き上がる)がかかり、後部にいる連中(偵察員、通信員、搭整員、射爆)から文句が出る。
「高度300、撃ッ」
うてッ(実際にはテッと聞こえる)と同時に引き起こす。
これがじつに重い。
引き起こしがゆるいと、機体は海面スレスレまで沈んでいく。
引き起こしが強すぎると、プラスGが4G(体重が4倍になるのと同じ)以上もかかる。
プラス3Gくらいの適度の引き起こしでも、機体は高度300メートルの引き起こし点から、150メートルくらいまで沈下する。
実戦の場合、「撃ッ」が200〜250メートルであるから、よほど練度を上げておかないと危険である。
また、大きく沈下すると、自分が投下した爆弾(潜水艦爆撃の爆弾は、通常250キロ)の爆風によって、機体を損傷することがあるので、更に熟練が必要となる。
戦闘機乗りのように、日常、曲技飛行をやり、Gになれると5G、6Gにも耐えられるようになるが、中攻乗りのようにGに慣れていないと、4G以上でブラックアイ(眼水の低下により、一瞬、目が見えなくなる)になることがあり、降下角マイナス30度、速度200ノットからの陸攻の引き起こしには、かなりの力とスムーズさが要求された。

【魚雷攻撃】
魚雷攻撃は800キロの航空魚雷を抱いて、水面10メートルの高度から、敵艦距離600から800メートルで投下する。
敵速によって、魚雷の発射角度を計算し、魚雷と敵艦が会合することによって、命中させるわけである。
この魚雷が、なかなか真っすぐには走ってくれない。
理論的には、完全な水平飛行状態で投下すれば、魚雷は真っすぐ走るのであるが、わずかでも左右どちらかに滑っておれば、機体の滑った反対方向に、魚雷は転回する。
また、機首下げ状態なら、海中深く潜ってしまって、魚雷は出てこない。
これは、魚雷が水中に入ると同時に、水圧によって上部の板が後ろに倒れ、それによって圧搾空気が働くようになっている。
これによって、小さな舵を動かして自動操縦する仕組みであるが、左右上下の大きな運動は、小さな舵での自動操縦では、軌道に乗せるための操縦はできないのである。

【欺瞞紙】
欺瞞紙は、敵の電探の電波を欺瞞するために、周波数に合わせて長さが決められており、100枚くらいの銀紙が板に挟んである。
スポンソン(銃座)から板をはずして投下する。
敵の電探は、この銀紙を捉えるのである。

(参考:横山長秋著 『海軍中攻決死隊〜九六陸攻操縦者の死闘〜』 1997年発行 光人社NF文庫)

(平成23年5月23日追記)


【ピストンリングのトラブル】

中国大陸における戦火が拡大すると、九六式陸攻撃隊も奥地の重慶爆撃をはじめ行動範囲が増大したため、ピストンリングの異常摩耗という新たな問題が発生した。
ピストンリングが摩耗すると、シリンダーとピストンの間の気密性が失われ、圧縮圧力の低下やオイルあがりが起き、エンジン出力が低下するだけでなく、エンジン焼付きなどの故障につながる。
しかも、作戦はストップできないとあって、故障エンジンは新品と交換し、交換された不具合エンジンは、その原因探求と再整備のため航空廠発動機部の第一工場に送られてきた。
その数、ざっと150台あまり。
一つのシリンダーには4個のピストンリングが付いており、14気筒だからエンジン1台について56個となる。
修理に送られてきたエンジンの数が150台だから、全部で8400個。
それに、ピストンリング製造メーカー3社(柏崎の理研ピストンリング、川口の日本ピストンリング、岡谷の帝国ピストンリング)の試料を含めると、調査試料はざっと1万個にのぼる。
この調査は3人の工員が担当したが、単純に計算すれば、3人で24時間寝ずにやったとしても、200日以上かかる勘定である。

このあとの調査でピストンリングの硬度および金属組織と摩耗との間に密接な関連があることがわかり、組織および硬度についてはっきりした検査基準が決められ、この基準に基づくピストンリングを装着した「金星」エンジンの三菱での領収運転では、それまでは領収運転後リングを交換しなければならなかったのが、皆無になったと報告された。

(参考:碇義朗 著 『航空テクノロジーの戦い』 光人社NF文庫 1996年3月発行)

(令和2年5月6日 追記)




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